2021年5月8日土曜日

前田ゆづき 29歳

夕方19時過ぎ ゆづきは関内駅近くのいつもいく店で軽い食事を済ませていつものスポーツジムにむかった。
そして通勤鞄からタオルと若草色のふんどしが入ったジッパーの袋を取り出した。
着ていた者をすべて脱ぎ、パンツを脱いでからお気に入りの若草色のふんどしを身体に纏うときの
開放的な気分になるこの時間が好きだ。

そうして、自分の中を
仕事モードから"相撲"モードへと心と身体を切り替えていくことで
昼間の仕事での様々なストレスを忘れ

この"相撲"とは、主に政府の給付金政策で増えた女性たちの間で広まりつつある
"ママさん相撲"のことだ

"ママさん相撲"と呼ばれるのはやっているのが
おもにやってる人たちが主婦の女性たちだからで
別に既婚でなくてはならないとか、専業主婦にかぎるとかの決まりはない


ゆづきのように
結婚してからも会社から請われて、それに応える形で
政府の給付金を伴った少子化対策政策が始まってからも
会社を辞めずに働き続けている女性もいる。

もともとはこのスポーツジムで普通にマシントレーニングをして
日頃のストレスを解消し、休みの日は結婚して2年になる夫と
ジョギングやスキー、スノーボードなどに出かけるような生活を送っていたが

とあるYOUTUBERがきっかけで
主婦たちの間で美容目的などでの相撲が広まり
ゆづきの通うジムでも相撲のプログラムが設けられた
それはたちまち人気のプログラムになり
月曜日と水曜日と金曜日と
3つの曜日に時間帯が作られた

そして最近では初心者向けのプログラムもまた別枠で作られた

これらのコースでは女子相撲経験のある女性トレーナーの指導監修の元
準備体操から始まり、四股やすり足など基礎的な練習を最初の30分で行い
そこから残り30分は試合形式の練習の時間になる

ゆづきは最初
裸になることなどに抵抗があり
お試し程度に最初の30分の時間だけ
普段のTシャツに短パン姿で混ざるだけだったが

気がつけば後半30分にも徐々に参加するようになり

いまではすっかりこのプログラムの常連になり、
相撲を取るときなどに限っては裸になることの開放感に快感すら感じるようになっていた。

そして本郷あやかや田中あゆみなど
神奈川県の月例の大会などで優勝を争うライバルの存在も
ゆづきを土俵に引きつけて放さない大きな要因となっていた。

昨日はその月例の大会の準決勝であやかに負けた
その悔しさも相まってゆづきの相撲への思いはさらに強い物になった。

2ヶ月前から始まったこの大会で決勝までいけなかったのは初めてで
内心、優勝した先月に続く連覇を狙っていただけに悔しさは一塩だった。
さらに準優勝したのが初参加の田中あゆみという存在も
ゆづきの心を奮い立たせていた。

土俵から離れればLINEやSNSで連絡をとりあい
ゆづきとあやかはたわいもない会話で盛り上がったり
なにかあれば相談に乗り合ったりする仲であるのだが

大会当日などは互いを意識し合う余り
口数が少なくなり

時に激しい言葉を
取り組み前などにぶつけ合ったこともある

そんなライバル同士なのだ
また、昨日、始めて表彰式でかおを合わせたあゆみともLINEの連絡先を交換した。

そんな風な感じで神奈川県内に何人かの相撲仲間ができた。

また同じスポーツジムでも
まだ大会にこそ参加していないが
3歳年下の岩田ユリコが最近参加し始めてしめきめきと力を付けてきて
練習ではたまにゆづきに勝つほどまでに成長してきた。

こういった仲間たちと談笑し合い
また土俵の上で肌と肌をあわせて戦い合う

こんな日々がゆづきの生活をより刺激的なものにしていた。

また後に、ゆづきに第一子ができた際はこのライバルたちにとても助けられることにもなるのだった。

0 件のコメント:

コメントを投稿