2021年5月14日金曜日

朝倉ユキ 28歳 子供1人

とある5月5日のこどもの日の朝、朝倉ユキは同じ相撲クラブで仲の良い
谷川まゆみと一緒に海辺の大きなホールにそれぞれベビーカーを押して入った。

いつも好きなバンドやアイドルのコンサートを見に来る
相撲協会と神奈川県などが主催する
その年に子供を出産した女性たちだけが参加できる
"ママさん相撲"の大会がある。

まさかこんな形であのホールを自分が使う立場になる日が来るとは
夢にも思わなかった。

エントランス広場には
抱っこひもやベビーカーなどで思い思いに我が子を連れた
参加者と思われる女性たちが30名ほど
普段の大会にもマワシを入れて運ぶために持参している
大きめのリュックやキャリーケースも携えて集まっている

普段は家族や実家などに子供を預けたりする参加者も多いが
今日は日に日に重くなる我が子を背負って
相撲のマワシも持ってきているのを見て

母は強しだなとユキは思った。

今日は参加者1人1人に専属のベビーシッターが着いて
より参加しやすい環境が整えられている

こういうところに少子化対策への思いの強さが感じられる

まず最初に産後の身体についての講演を聴いたあとは

そのあと、県が用意した高級なお弁当を食べながら昼食会のあと

マワシに着替えて
参加者全員で集合写真を撮影したあとは

大相撲の相撲部屋などから貸し出された化粧まわし
をつけた姿で我が子を抱き上げて個人撮影をした


"ママさん相撲"の試合で使われるマワシはマジックテープなどを用いて取り付けを簡単にした専用のマワシだが
なぜか前部分はマジックテープもなく二重になっているのかユキは不思議に思い
ときおり まゆみなどと話し合ってはいたが
この前掛けのような化粧まわしを着けるためだったのかと合点がいった。

そして
もっと強くなってこの子を守らなければという
母親としての思いが強まるのを
化粧まわしを着けた姿で我が子を抱き上げながら感じた

そしていよいよこの日のメインイベントの相撲大会に入っていった

参加者は化粧まわしから取り組み用のマワシに締め直し
くじを引き
広いメインホール内に用意された3つの土俵に分かれて取り組みに入っていった

この日の取り組みはまず30人の参加者を2組に分けての総当たり戦形式の予選が行われ
各組の優勝者が総当たりで全体の優勝を争うという形で行われた

ユキとまゆみはちがう組になった
「じゃああたしは向こうだから決勝でね」
「決勝でまたやりたいわね」
と2人はそれぞれの土俵に分かれていった

土俵上では久しぶりの相撲を楽しみつつも
女と女の意地が激しくぶつかり合い
それなりに見応えのある熱戦が繰り広げられていた

小柄なユキは相手の懐に飛び込んで下手を取ったり

時には正面から力と力の勝負を胸を母乳まみれにしながら受けて立ってみたりしながら
なんとかユキとのなんどか重ねた練習の甲斐もあってなんとか全勝で決勝に駒を進めた

普段は1回戦や2回戦で負けることが多かったのだが
やっぱり練習は大事なんだなとユキは感じた

まゆみもどうにか勝ち上がってきて

ここにユキとまゆみの直接対決が決勝で実現した

「あんたにしては偉い調子が良いわね」
「そっちこそ」

そんな軽口をとばしあい
2人はそれぞれの我が子のいる休憩場所へ分かれ
授乳等すませ

決勝の土俵にへ向かった

立ち会い お互いに言葉はなく
無言で睨み合った

ユキとまゆみは誕生日が近く
こどもの出産時期も近く

おなじく小柄な者同士ということもあり
普段はとても仲が良いが
土俵の上では激しく火花を散らし合ってきた

そして今日もまた
2人は審判の合図にあわせて
正面と正面でバチンとぶつかり合った

利き手だけはちがうので

2人の取り組みはいつも
手が喧嘩のように
マワシの主導権を奪い合う

胸と胸を合わせて正面から組み合い

そこからユキはまゆみに秘密で練習してきた
普段とは逆側からの投げがきまり

まゆみを土俵に転がした

これでまゆみとの対戦成績は3勝3敗になった
まゆみに負け越して相撲を産休にはいったのが心残りだったが
「あの新しい技すごいわね」
「あなたに負け越してたのが悔しくてね」

こうして
"こどもの誕生を祝うママさん相撲の大会"
はユキの優勝で幕を閉じた

ユキとまゆみは
帰りはいつものように近くの喫茶店でお茶をしてから家路についた。

この出産して2年以内の女性たちだけの相撲大会は
出産後の競技復帰を促したい日本相撲協会女子相撲推進部と子供を産むという喜びをより感じて貰い
出産増加を促したい政府や自治体との利害が合致して
神奈川県のこの日の大会で第一回を開催したあと
全都道府県で開催されるようになる





その後
化粧まわしでの写真撮影は"ママさん相撲"に興じる母親たちに好評を博し
こういった 出産を祝う等のイベントや
全国大会など大きな大会のセレモニーや記念撮影などで使われるようになり
"ママさん相撲"にも少しずつ根付いていくのだった。

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