2023年1月29日日曜日

小熊しずか 31歳 子供2人

裸になって廻しを締め込み
土俵に入り
土俵の向こうの女と睨み合い
呼吸を合わせ
審判の合図に合わせて
自分を倒しに来る相手の女と
互いの感情をむき出しにしながら
顔や肩や胸を
平手で張りあい
自分が少しでも優位になるように
相手の女の体制を崩し

そして 
相手の女と廻しを掴みあって 
組み合いながら

互いの体温や押しあたる胸や乳房など
身体の感触を通して

無言の対話をし
肌と肌を合わせながら女の意地をぶつかり合わせ


そして組み合いながら

押し合い
相手の女を土俵の外に押し出す

あるいは
様々に練習してきた
投げ技の体制に持ち込み

相手の女を土俵の地面に土俵の外に投げ落とし

審判から勝ち名乗りを受け
褒賞の入った封筒を受け取り

取り組みを終えた母親に
歓喜の興奮のままに近寄ってくる
最愛我が子達を
抱き寄せ

勝利の感慨に浸り
次の取り組みまで

観客席に引き上げ

そして
周りの
相撲仲間たちから
祝福を受け
 次の取り組みに備えて
子どもの世話をしながら
心の準備をする

そして
何番か

どうにか勝利し

そして
何番か
トーナメントを勝ち上がったところで

その大会の上位に勝ち上がる誰かに敗れ 

勝負に敗れた母を見て
悲しげな顔をする我が子と一緒に
その日貰った賞金や景品の入ったバックを携えて
会場を引き上げる

しずかは高校を卒業し
地元奈良の電器メーカーの工場で
7年ほど働き

その頃、知り合いの紹介で知り合った男性と結婚し

子供ができた

しずかは少子化対策の専業主婦向けの給付金の存在は知っていたが
結婚しても尚
どこか
日課で気晴らしにもなっていた
工場での仕事を続けていたが

妊娠を機に
退職し
専業主婦の道に入った。

そして
市民会館で少子化対策給付金等の
新規で専業主婦になる女性たちに向けた
説明会に出席した。

そこで
健康づくりのための
公認ママさんスポーツのひとつとして紹介されたママさん相撲に
惹かれるものを感じた

女たちが土俵の中で
張り手を撃ち合い
組み合い

体の小さいものは足を取りに行ったり
相手の下に潜り込んだりで

必死に戦っている姿に
惹かれるものを感じた

しずかは
元々

格闘技はたまに見ていて
女子相撲の存在も知っていたが

ママさん相撲は
裸にまわし1枚で
競い合うというのが
裸になることに開放的な快感を感じる
しずかには
より魅力的で興味をそそられた

また
主に大会優勝者など
上位入賞者に許される
化粧まわしを着用しての
記念撮影にも憧れた


あのたくましく絞り込まれた上半身を称え
鍛えあげられせりだした
胸を恥じらうどころか誇らしげに称え
凛々しく
母親として
女としての風格ある姿で
我が子を抱き上げる姿にとても
憧れた。


だが
この化粧まわしを着ける前にいつも
立ち塞がる存在が居る

岩見かずよだ

先週も
激しく付き合い押し合い

かずよをあと一歩の所へ追い詰めたが
組み合いに持ち込まれ

土俵に叩きつけられ
しずかは
あと一歩のところで

化粧まわしをつけるという目標に届かなかった。


そして
今日もしずかは
相撲クラブで相撲仲間たちと
ライバルに勝つために
練習に励む。