2024年4月21日日曜日

ママさん相撲クラブの日常 黒田かすみ 32歳 子供2人

裸で全身から風を感じる開放感
対戦相手の女と組み合ったときに感じる
相手の女の滾るような体温と汗

相手の女を組みいなして
取り組みに勝ったときの達成感

そんな感覚に魅了され
ママさん相撲の土俵に足を踏み入れて5年の月日が流れた

練習のない日
子供たちも学校や保育園で家にいない時間
パン  パン   パーーン 
力強くも鈍い音が家に響く
かすみはママさん相撲を始めてから
家の一室に据え付けたサンドバッグに
真っ裸で向き合い

一発一発張り手を撃ち込む

組み相撲を得意とするかすみも
始めたばかりのころは
激しい張り手の欧州に苦しめられ

いつしか
かすみも激しい張り手が飛び交う
ママさん相撲で勝ち抜くための手段として張り手を研究し
張り手をより多く用いるようになった

もともとは
少子化対策で国が給付金を支給する条件下で美容効果のあるスポーツとして始まった
ママさん相撲

始まった当初は
交流会としての側面が強く
大会などで勝ち負けを競う側面はあっても
投げ技を弾みで出してしまう程度だったが

少子化対策効果に着目した
国や自治体や企業がスポンサーにつき

普及奨励のために
参加度合いや競技成績に応じた割増の給付金や
取り組みごとの懸賞金などを出すようになり

専業主婦同士の社交的スポーツから
専業主婦として子供を育て家庭を守る女たち同士による
激しい格闘技に様変わりしていった

ママさん相撲の代名詞とも言える張り手
立ち会い後に組み合う前に
より自分に優位な位置取りで
相手と組み合うため

相手のバランスを崩すため

相手の戦意を削ぐため

張り手は
広く用いられるようになった
 



かすみの所属する生駒クラブの練習の日

かすみは
子供を小学校に送り出し
保育園に送り届けると

練習場所の山の上の公民館に向かった

この中の土俵にクラブメンバーで集まって
ママさん相撲の練習を行う

女たちが各々に
服を脱ぎ

ママさん相撲専用に開発された
バックルを締め込むだけで着用できる廻しを履きこみ
腰とタテミツの調整ベルトを自分の身体に合わせて締め上げ

静かで荘厳な空気の中、練習の準備をした

参加の8人全員で四股を踏み
それからすり足などのウォーミングアップを行うと

練習の中心メニューの
申し合いが始まった

取り組みをする2人の女たちが土俵に入り
そのまわりを取り組みの番を待つ女たちが 取り囲んで見守る

この時間になると
同じクラブの仲間同士でも
互いへの対抗心や野心で

熱くなることが多い練習メニューだ

クラブ内での相撲ではあるが
同じクラブのメンバー同士は
団体戦メンバー5人そして
勝ち進んだときの休憩交代要因の序列を争うライバルでもあり

また大会の個人戦で
同じクラブ同士で対戦することも当然ある

また
団体戦メンバーに入ると給付金が増額されたりといった優遇もある

大会の取り組みだけでなく
こういった練習の仲間うちでの取り組み内容も加味して
団体戦メンバー5人が決まる
そして、団体戦トーナメントが進むにつれて
疲れてきたメンバーとの交代で出やすい
順番も決まる


クラブ内での序列が決まる勝負の時間のひとつで
また取り組みを通して強くなっていくのに欠かせない時間のひとつがこの申し合いなのだ

こうした 
申し合いのマッチメークや
メンバーの選出などを
クラブマスターと呼ばれる役職につく
倉野なおこが決めている

まずは、クラブに入って2ヶ月ほどの歴が浅い若い、石原あいと倉本ほのかの取り組みから
申し合いは始まった



最初の取り組みは



若い10代のような肌ツヤの裸体にまわし1枚の姿で
おわんのようなまだ育ち盛りの乳房を互いに正対させ合い
手をついた仕切りせん越しに強い眼差しを交わし合い

同じ日に入会し
普段は仲が良い2人も
 取り組みでの対戦となるとむき出しの激しい闘志をお互いにぶつけ合う

取り組みが始まった

1発  2発と肩などに
覚えたての張り手を牽制しあうように
打ち込み合い

互いに揺さぶりあい

そこから


あいがよろめいたところに
ほのかが組み付き
あいの廻しの両腰を掴み

押し出しを狙う
組み付かれたあいも
ややバランスを崩しながらも
胸を合わせて組み止めるように受け止め
身体をよじらせながら粘る

ほのかはさらに胸を被せるように被りより

被せられたあいも踏ん張ってつま先立ちのようになって胸をかぶせかえして
被りより
また
足を動かして反転をしかけて逆転を狙う

最後は正面からの力比べのような組み合いのすえ

上手投げであいが逆転勝ちし

勝ったあいは

なおこの指名した
序列が近い別のメンバーと取り組みを
と行なう

 今日、ほのかに勝利して
先輩に挑戦していく権利を得たあいは
果敢に先輩メンバーに力と技の限りを駆使して挑んでいくも

あいは経験の差で
辛くも敗れ

その勝ったメンバーは

別のメンバーとの取り組みに臨み

という流れで

申し合いと言う名の
クラブ内の内なる対決が続く

クラブ内の序列が下から順番に指名され
しばらくは
同じような順番で
同じような相手との対戦が続く場合が多く
よく対戦が続く同士は
互いにライバルとして意識し合い
競い合うようになる

そして
何度も同じ相手への連敗が続いていたりすると

順番が入れ替わったり
挙句は
団体戦レギュラーなどを奪われてしまう形になるようなこともある

そういう訳なので
クラブのメンバー同士で挑戦し合う
「申し合い」などの時間は
互いの激しい野心と競争意識が交錯する時間になっている

いよいよ、かすみが取り組みに指名された
クラブの後輩の石館あきの挑戦を受ける形になった

あきは
最近、クラブ内の序列をあげて
団体戦メンバー入りした入会2年目の期待の若手で
クラブ内での自分の序列を上げよう奮闘している

そんな勢いに乗る
あき

そんな後輩の挑戦を退けて
さらに高みをめざしたい 
かすみ
の対決の構図だ

あきは
さっきまでの2戦を連勝してきた
疲れもなんのその
取り組み序盤から

激しい突っ張りなどを交えて
かすみを責め立てる

かすみも
張り返して

あきの出方をうかがう流れから

あきは
かすみのまわしを掴んで左右に動き回って
揺さぶりをかけるが


かすみは大きな胸を密着させて組み合いに持ち込み

自分の体温を合わせ込むことであきの体温を上昇させ

あきのスタミナの組み合いながら削りこみ

土俵外に押し出して

どうにか
先輩としての貫禄を保ったかすみが勝利し
次の取り組みは

かすみと同じ日に入会して
ライバルとして競い続けている
日岡まなみとの対戦を迎えた

このところまなみとは
練習でも大会の個人戦でも部が悪く
続けて敗れていて

ついに今日は序列が
まなみより下のところになり
悔しい思いをしているかすみは

冒頭から
激しくぶちかまし合い

渾身の張り手を方やみぞおちや頬に打ち込み

まなみも負けず強い張り手を頬やみぞおちに返す

そして
身体を密着させての正面から組み合いになだれ込むと

互いに負けたくない意地と意地をぶつかり合わせる

組み合いながら
左右に身体をくねらせてタイミングを探りあい
執念で
かすみは見つけた隙間を逃さずに足をかけて
執念でまなみを土俵に叩きつけて

連敗に終止符をうつことができた


まなみとは
入りたての頃の「申し合い」の
最初の取り組みでの対戦から
始まり
レギュラー当落選上の競い合いなど
常に近い順位で肌を合わせて競い合う間柄であり続けている

それ故に互いにレギュラーの確固たる地位に就いた今でも
練習だろうが、個人戦などの対戦であろうと
互いに負けたくないと強く思い合って
対戦に臨む間柄であり続けている 


そして、因縁の対戦を終えると
クラブマスターにして、大将の座にも座り続ける
倉野なおことの対戦を迎えた

3年先輩のなおこは

かすみの攻めを軽くいなして
土俵に転がして格の違いを見せつけた

ようやくたまに勝てるぐらいには
なったのだが
それでもこの先輩にはなかなか
勝てないことをかすみはもどかしく感じ
土俵に両拳を叩きつけた


そしてこの取組みのあとは
なおこに挑みたい若いメンバーたちが
大挙としてなおこを取り囲んで
なおこはその中から指名して

なおこと、その若いメンバーによる
取り組みが始まる

この時
申し合いを希望して
なおこや上位陣を囲んでいくメンバーは
石館あきなど
主にレギュラー当落選上のメンバーが行くことが多い

なおこや上位陣に積極的に挑んで
他のライバルたちよりも自分の方が気持ちが強いことをアピールし

また
上位陣との対戦で
様々なことを学び自分の糧にすることを目的にしている

また
挑戦を受けるなおこや上位陣も
連続して何番も取ることで

勝ち抜き形式の団体戦で何番もとれるスタミナを養う機会にしている

なおこは六番ほど
若手たちと対戦し
どれも難なく若手たちを退けて
土俵から下がって

そのまましばらく
申し合いの制限時間まで

当落選上の若手たち同士の取り組みが
互いにレギュラーへの思いをぶつけ合うかのように
激しい取り組みを何番も行う

そのあと水分を補給するなどした後
最後は
みんなでムカデのように連なってすり足を
したあとクールダウンの体操をして
練習は終わった

こうしたクラブ内での激しい競争で
生駒クラブは奈良県内の目立たない存在から
若草クラブや御所クラブと並び立つ存在になり
時折
個人戦だけでなく
団体戦でも全国大会に顔を出すまでに力をつけてきた

また
かすみ自身もこういった環境で力をつけて
個人でも全国大会を狙えるまでになった


練習の翌日
回復を早めるために家の近くを少しジョギングしてから

体のケアも兼ねて
大阪の難波のエステに行くことが
かすみの定番パターンになっている

ここで
身体の疲れを取りつつ
肌のコンディションを整える

女同士の世界とはいえ
お互い裸を見合うことになるので
少しでも美しく見られたいという女心から
エステを習慣にする
ママさん相撲クラブのメンバーも多く

このエステで
大阪など他のクラブのママさん相撲クラブの知り合いに
出くわすこともあるが

こういった習慣も含めて

ママさん相撲をすると美しくなれるという
定説を生み出し

また
夫からの夜の誘いも増えて


子供がたくさん産まれやすくなるという
流れが産まれつつある

これに国や自治体が喜んで
給付金などを上乗せするという流れに繋がっている


そして
土曜日

かすみたち生駒クラブのメンバーは
かねてより親交のある京都の山城クラブとの
合同練習

午前中は団体戦形式の練習試合の
あと
午後は両クラブ入りまぜて
個人戦トーナメント
という内容で
2クラブ合同で大会の日の動きを模した練習
という内容で予定されている

大会が遠のくと
自分たちのクラブ内での対戦ばかりになり
試合での対応力が鈍ることがあるので
こういった合同練習や 
自分たちのクラブ若しくは他のクラブが企画して開催する
小規模な大会に参加するなどし

様々な相手と対戦することで
対応力を鈍らせないために

こういったことが時折 活動内容に入ってくる

そうして始まった団体戦1試合目
激しいレギュラー争いのなかで
この試合の先鋒を勝ち取った
赤木たえこが
相手チームの先鋒と鬼気迫る張り合いからの
組み合いに敗れ

勢いに乗りレギュラーに定着しつつある次鋒の石館あき
同じ相手に年季の違いを見せつけられるような内容で
上手く交わされるように土俵に転がされ

相手の先鋒が鬼気迫る2人抜きを繰り広げる中で
この試合の中堅に名を連ねるかすみに出番が回ってきた

かすみは
相手の消耗に漬け込むかのように
体を密着させて
身体を左右にくねらせながら
持久戦に持ち込み

相手の力が抜けてきたところで
寄り倒して


次の相手次鋒との取り組みも
どうにか意地の押し出しで勝利をもぎ取るも

次の相手中堅との中堅同士の対戦では
これまでの2戦の疲れもあって

力比べの末土俵際で粘るも力尽き
土俵を割って

ライバルにしてこの試合の副将に座る日岡まなみにあとを託す形になった

まなみは
レスリングのように相手の下から潜り込んで組み付き

相手の足を取ってこかして
勝利した
 
チームメイトなので
自分が勝てなかった相手をまなみが
倒してくれたことは
喜ぶべきなのだろうが

かすみは
ライバルに先を越されたことへの
嫉妬心と 
まなみへの対抗心が
より一層強まった

そして
まなみは相手方の大将との1戦に臨む

相手は全国大会に
個人でも常連のように出場する実力者で

それを相手にまなみは奮戦するも
あと一歩及ばず
土俵の外に押し出され


大将に座る
倉野なおこ
相手方大将
久堀なつこ
という
大将同士の決戦に
この団体戦の決着が委ねられた

 序盤から激しく張り手を突き合って牽制しあい

なおこは
なつみの後ろ廻しをガッチリ掴み
なつみはなおこの前みつをガッチリ掴む形で組み合いになった

なつみは
暴れ牛のように左右に動き回ってる
なおこを振り回し

なおこは堪えて
なつみの廻しを抑え込む

大将同士の肌と肌を合わせる意地と意地のぶつかり合いは

しばらく膠着状態に入ったが

それから
なおこが 意地で押し勝って
なつみを押し出すで決着し

団体戦1戦目は
生駒クラブが勝つ形で終わった

それでも
ミーティングではなおこの厳しい言葉がひしひし響いた

そして団体戦練習試合2戦目
倉本ほのかと石原あいがそれぞれ先鋒と次鋒に入り
そして
たえこと日頃から激しいレギュラー争いを繰り広げる
片山ゆうこが中堅に入り

かすみのライバル日岡まなみが副将

そして
大将には
かすみが抜擢され

赤木たえこと石館あき
は 
2戦目はメンバーを外され
自らも外れたなおこの横に座り見守る


なおこは

入会1年目のメンバーがつけることになっている白いリボンを髪に結びつけるあいとほのかを近くに呼んで
言葉をかけた
「今回は相手の先鋒と次鋒もあなたたちと同じような時期に始めたぐらいの2人を出してもらってるの
おちついて
今まで教えたことをその通りにやっておいで」

話を聞くと
初めての団体戦に緊張していた
あいとほのかは闘志みなぎらせて
控えの席に向かった

そして
あい と ほのかにとって

初めての団体戦が始まった

相手も陣容をガラリと変えて
若い5人を送り込んできた

先鋒のあいが
土俵に入る

相手の先鋒もあいやほのかと同じように
髪に白いリボンを結びつけて土俵に上がってきた

あいと同じくらい
若さを感じさせる風貌の女が
あいと正対した位置の仕切り線に出てきた


立ち会いから
ぶちかまし合うと

2人は烈火のごとく激しい張り手を打ち合った
そして互いの両手を脇で挟み込ようなかたちになり1度胸を合わせて組み合うと

そのまま
左右にぐいぐいと揺れながら組み合う形となり
若い2人の身体は
土俵際付近で

踊り回るように動きまわり

相手を押し出すタイミングをうかがいあう


相手の山城の選手が
あいの身体を突き放し

また
張り手を繰り出すと

あいの身体は土俵上に崩れ落ちた

敗れたあいは涙をながし

ほのかはあいを抱き寄せて慰めてから

土俵にはいった

土俵には
先ほどあいを倒した白いリボン若い山城の
橘あいか

ほのかとあいかの
1戦は

ほのかが低く組みかかり

あいかの足をとって転がす形で
勝負がついた

敗れたあいかは
ほのかを激しく睨みつけながら

土俵の外に出て

ほのかの勝ち名乗りを見つめた

そして
2人目の 今川ひろこ
ほのかの対戦になった
髪を白のリボンで結んだ両者は土俵に入り

合図とともに組み合った

胸を合わせて
互いに攻防入れ替わりながら
仕掛けるタイミングを探り合い

左右にぐいぐい動きながらチャンスを探り合い

最後は意地と意地の我慢比べの末

ほのかが
ひろこを土俵にたたきつけ
山城クラブの中堅
紺谷まさこに挑戦する形になったが

ここまで2戦の疲労もあり力及ばず土俵に倒されたものの

あいとほのかの取り組みに奮起したゆうこが
3戦連勝し

またしても
生駒クラブの勝利に終わり

たえことのレギュラー争いをぎゃくてんすふような形になり

午前の団体戦が終わり午後の個人戦のトーナメント表が張り出された
概ね 生駒クラブメンバーと山城クラブが当たるようにトーナメント表が組まれた

また
入って2ヶ月の
あい、ほのかはそれぞれあいか、ひろこと
トーナメントの最初の2枠で対戦するように組まれた

午後のトーナメントでは
あいもほのかも 1回戦でほぼ同期の山城クラブの2人に敗れ

山城クラブの同期対決をやられてしまったことを悔しがり

山城クラブの新人同士の対決は
激しい張り手の打ち合いからの
身内同士なのかと目を疑うほど
激しいものになり
ひろこが勝利を収め
先輩たちへの挑戦権を勝ち取った形になった

かすみは
ライバル視するまなみを意識しながら何個か勝ち上がったところで

おなじ生駒クラブのゆうこの挑戦を受けるも
レギュラー奪取に燃えるゆうこの執念の突き押しの前に敗れ
 決勝はかすみのライバル まなみと
山城クラブ 期待の若手 生田ともこの対決になった

場内全体から歓声がわきおこるなか
両クラブの意地と意地のぶつかり合う対戦は

経験で上回るまなみを
ともこがねじ伏せるような形で

ともこが制した


色々あった練習試合だったが
自分もうかうかしては居られないと
かすみは気を引き締めて
帰りの車のハンドルを握り
帰路に着いた


それから
かすみも
他のメンバーたちの成長に危機感を感じつつ
より生駒クラブを強くしたいと願い

練習のない日も
自宅などに
あき、あい、ほのかなど
若いメンバーを招いて
個人練習をやったり

若草クラブや大阪の古市クラブなど他のクラブの知り合いと
個人練習を積極的に行い

迎えた
大きな大会の初戦

午前の団体戦

まわし姿のかすみは
前まわしにつけた
生駒の文字の入った
ゼッケンを整え

応援に来た子供たち二人を抱きしめてから
土俵に入った

この団体戦の初戦は
なおこの後ろの副将の位置を任されて
相撲を取る


ママさん相撲の土俵にあがる女たちは
今日も家庭をまもり
我が子を守り育て

その矜恃を競い合うように鍛え合いながら
土俵に上がり続ける