2023年5月29日月曜日

野田あきな 26歳 子供1人

とある週末の朝 あきなは夫と子供と共に 伊豆温泉に向かう特急列車サフィール踊り子の
グリーン席に腰掛け つかの間の団欒の中に居た

とは、いっても普通の温泉旅行ではない

招待されての旅行なので、普段の家族旅行とは少し 勝手が違う

あきなは 会社員として勤務していたときに、今の夫と結婚し
出産し
国の専業主婦に対するそれまでの収入と同等額以上の金額を給付し少子化を抑制しようとする国策を
利用する形で仕事を辞めて専業主婦になり、

子供が保育園に通い始めた頃から
ママさん相撲を始めて、3年がたとうとしていた。
最初はママ友から団体戦の人数が足りないからと誘われて始めてみた

最初はやはり 裸で回し姿になることに、強い恥じらいを感じたが

それに慣れると

駆け引きや肌と肌を介した気持ちのぶつけ合いなど
相撲の面白さに魅了されていき

相撲の実力も着実に伸びていき
大会での優勝こそまだ果たせていないものの
次第にママさん相撲YOUTUBEや新聞等のメディア等からも注目される存在に成長し

今回の若い有望なメンバーを関東の各都県から招いて行なう合宿イベントへ招待された。

朝の10時過ぎに温泉街に着くと
家族で街中を散策し

昼食まで済ませ

12時に会場のリゾートホテルに入って支度を済ませると
併設されたアリーナに入り
マワシを締め込んで
受付を済ませた

土俵には
関東の7都県から選ばれた14人の女性たちが集まり

そして
観客席は
普段と違い
周辺クラブメンバーなどのママさん相撲関係者
外部の観客
周辺住民

さらにはマスコミ関係者など
選手家族以外で

ほぼ埋まった状態になり

大相撲のような賑わいを見せていた。

中には
埼玉県内の大会で
何度か対戦したことがあり
1度しか勝てたことがない
垣内ちよみの姿も見つけた

そして
主催者の連盟役員の女性から
今日と明日の概要の説明がされ

そして
最後に
「今日は同じ県内の普段はライバルとして
凌ぎを削っている人とも一緒に練習などをする事になると思いますが
せっかくなので
同じ都県の人との取り組みは控えて
他の都県の人と積極的に対戦してみてください
ということをお願い申し上げて締めくくりとします」

という結びの言葉と共に
ウォーミングアップ程度に

四股やすり足などが始まった

そのあと
東西対抗形式の
西と東に分かれて
それぞれにぶつかり稽古と
申し合いが
東西交互に
始まった

東西の割り振りは
全国優勝の常連とも言える神奈川からきた2人が
東西の横綱のように左右に分かれ
あとは
いかにも
拮抗しないように
各都県の代表を割り振ったような感じだった
そして

もう1人の埼玉県代表のちよみが
東西に割り振られたうちの
神奈川代表の1人との
対戦相手に選ばれていて

自分は
千葉県代表の人との対戦になっていて

そのことに
あきなは少し嫉妬を覚えた

そしてちよみとは
「垣内さん、神奈川の人たちまるで
横綱みたいな扱われ方してますよね
あの東西の割り振り方」
「そうですよね悔しいですよね」
「やっぱり湘南クラブさんが頻繁に全国優勝してるからなんですかね」
「野田さん、見ててくださいね
私が神奈川の今迫さん倒して
埼玉は強いって、見せつけてやります」

このやりとりが
却って
あきなのちよみへの嫉妬心からくる
ライバル心に火をつけた

いつも対戦した時は
互いに負けん気の強さからか
粘り強く手数の多い相撲になり

水切り間際までの互角な内容になる

それでもあきなは
星の数こそちよみの方が先んじているが
いつか
自分があきなに勝って
全国にも行きたいと思っている

そんななかで
埼玉を代表しているのは
自分と宣言されたような気分に
あきなはなった

それで
申し合いの時は
自分のクラブの練習でよくやるように
ライバル意識を抱く
ちよみの番の時に
積極的に申し込んで行って対戦しようと思ったが
役員の
あの言葉を思い出し
踏みとどまった

この申し合は
東西対抗で
同じ
西側のチーム同士とはいえ

同じ県内同士では普段は年などが近い
ライバル同士でも応援しあい

自分の都県のプライドを掛けた
対抗戦のような空気が流れた

あきなも
普段
なかなか対戦できない東京の人の冷静な取り口や
電車道のように力強く推し続けてくる
栃木の人や
レスリング技のような動きを交えた
神奈川の人などとの
対戦を楽しんだが

それでも
応援しあいつつも
常に
ちよみの勝ち負けが気にかかっていた

結果
あきなは3勝5敗

ちよみは4勝4敗

というような内容で
申し合いを
終え
今度は
練習用の白廻しから
各都県のシンボルカラーの廻しに
化粧膜をつけた
化粧まわし姿に着替えて
子供を抱き抱えたりして
全参加者で記念撮影を行い

東西それぞれで記念撮影を行い

そのあと
それぞれの
都県毎で
2人ずつ
それぞれの都県の相撲連盟の広報担当者から
記念撮影や
座談形式でのインタビューが
行われた

2人で
子供を抱いた状態や
化粧まわしをつけて
組み合った状態や
 
笑顔で張り手など
様々なポーズで写真撮影を行い

そのあと
ちよみと対談形式でのインタビューになった

—今回は関東の各都県の若手同士の交流の機会をと期待の若手ということでお2人にこの合宿にご参加頂いたわけですが
普段とは違うメンバーで練習などして如何ですか?

ちよみ
「やっぱり
神奈川がママさん相撲界の横綱みたいになってる感じがして
それはどうかなと思うので
私が今日神奈川の人に勝って
見返そうかなと思います」

あきな
「私は
その神奈川の人との対戦相手に選ばれることは無かったので
明日の個人戦トーナメントで
垣内さんと対戦するところまで勝ち上がって
神奈川の人を倒した垣内さんに勝って
埼玉の強さを証明したいかなと思います。」

—おーー いいですね ここでも同じ県内同士で火花散らしてますね

あきな
「いつも、もうちょっとのところで垣内さんに負けてるので
今回は垣内さんの弱点を見つけて
これから勝っていくきっかけにと思ってます」

ちよみ
「私も野田さんとの対戦では、いつもかなり手こずってるので
野田さんを研究して
もっと楽に勝てるようにしたいなとも思ってます。」

—助け合いつつも
そういったしたたかな考えもお持ちなんですね
ところで

おふたりとも出産1年以内の女性同士の白相撲の大会は経験されてないということで
こういった化粧まわしや
さがりつきの色廻しをつけての相撲などは
初めてかと思うのですが
どういったことを感じられていますか?

ちよみ
「裸に色廻しつけて、化粧まわしの状態になって
いかにもお相撲さんになったなという感じがします
でも、だからこそ
1つでも多く勝って子供たちにいいとこ見せたいなと思います。」

あきな
「垣内さんの言うように
お相撲さんになったなという気分ですね
それと
やっぱり
垣内さんの言うように
かっこよくて強いお母ちゃんを子供に見せるために
勝ちたいなという気持ちが強いですね」

—ありがとうございました。
ここからの東西対抗戦や
明日の個人トーナメントのご健闘を
祈ってます

それと
ご家族の時間等も楽しんでください

あきな、ちよみ
「ありがとうございました。」



それから
あきなは
ちよみと分かれて

支度部屋に入り
まわしの垂れ幕をさがりに付け替えて
準備を整えて行った

埼玉県の連盟のチームカラーの色鮮やかな水色の廻しに
さがりがついているのを見て

なんだか大相撲の力士になった気分になった

だが
やっぱり

下がりをたくしあげての立ち会いは
普段の取り組みと感覚が違いそうに感じたので

夫に相手になってもらい
何度か
立ち会いの一連の流れを練習した。

そして
今日の東西対抗戦の取り組みが
東京の磯野ひろみと茨城の岩崎千尋の対戦で始まった。

東西両側の仕切り線にしゃがんだ2人の若い女は
子供などからの声援を受け
黒とオレンジの
さがりつきの廻しを締めこんで土俵に上り

外を向いてそれぞれに軽く四股を踏んだあと

真っ直ぐに互いを見つめ合って目礼を交わし


さがりの細い線を
左右にたくしあげて
しゃがみ

柏手を打って


背筋を伸ばして
向き合った


廻し1枚の姿で

若い女性特有のハリのある肌は
若い女性ならではの色光を帯び

大きく突きだした乳房の
膨らみは

母としての決意の強さを讃えているようだった。

そして
両者手を付き
審判の
合図で取り組みが始まり

オレンジの廻しの女は
猛然と組みかかり
それを
黒の廻しの女が
オレンジの女の顔の前に伸ばし出した左手で
オレンジの女のバランスを崩し

今度は黒の廻しの女が組みかかったところを
オレンジの廻しの女が
黒の廻しの女の頬を強く張り

黒の廻しの女もみぞおちに張り返し


何発か張り合ったあと
廻しを掴みあって組み合いに持ち込み

右に左に上に下に
乳房と乳房を密着した状態で
激しく組み合い
組み合いの激しさでサガリを落としながら

オレンジの廻しを締め混んだ
茨城の女が

黒の廻しの東京の
女を押し出し

オレンジの廻しの岩崎ちひろが
蹲踞して
目録の封筒を受け取り

子供と夫の待つ観覧席に引き上げ

敗れた黒色のまわしの女も
夫と子供たちに付き添われて
自分の席に戻った。

そう、こう、しているうちに
あきなの出番が近づいてきた

あきなは
廊下でさがりつのいた廻しを締め込み
頬を叩いて
気持ちを取り組みに向けた

いつもとは違う
水色の廻し

そして
暖簾のように垂れ下がった
さがり

いつもの相撲とは
全然違って見えた


呼び出しの声に促されて
あきなは土俵に入った

対戦相手の千葉の女もサガリの付いた赤い廻しを締めこんで土俵にはいってきた

相手の女もあきなと同じぐらい
小柄な女だった

あきなは最初
懐に潜り込んで
足を取りに行こうと
考えていたが

立ち会い

相手の女の体の大きさを見て
あきなは

正面から組み合って戦うことを決めた

あきなと相手の赤い廻しの女は
立ち会い
互いの腕や肩に張り手を打ち合い
主導権を探りあったあと

互いに互いの張り手を防ぎ合ううちに
力比べのように
手で二の腕を押し合う形になり

体格差の少ない2人の押し合いは
拮抗し

上下に揺さぶって
バランスを崩しあいを図るも決着せず





胸を合わせて
廻しをつかみあって
組み合うかたちにもつれこんだ


くみあいながらも

上下に左右に様々に
体制を入れ替え

投げに入れる体制を
奪い合うように探り合い
ながら組み合った

廻しを引き付け合い

乳房や腹などから伝わり来る互いの体温や
強い腕の動きを
感じ取り合いながら

完全な主導権は互いに渡すまいと
意地の張り合いのような
膠着が続いていたが

あきなの右手がどうにか
相手の赤い廻しを捕まえ直し

赤い廻しの女を地面にたたきつけ

蹲踞をし
審判から祝儀金の入った封筒を受け取り

子供と夫と
自室に引き上げ
シャワーで取り組みでついた砂と汗をながし
部屋のテレビモニターで自分のあとの取り組みを見ながら休んでいて
気がついたら
疲れからか眠りこんでいた。

ちよみの取り組みを見ようと
ソファに腰かけて
モニターを見ていたのに

そして
夜になり
夜の晩餐会の時間が近くなり
夫に起こされた

夫からはちよみは
負けたと聞かされた

県内で最大のライバルと意識する相手の取り組みを
この目に焼き付ける機会を逸したことをあきなは悔やんだが

同時に
千代美は負けたが
自分は勝ったということで
少し乙に浸った

急いで
化粧を直し
短パンとTシャツ姿から旅館の浴衣姿に着替えて
会食会場に向かった

ビュッフェ形式の食事会には
参加選手や
その家族

各県の相撲連盟の役員などが
一堂に会し

思い思いに談笑したり
食事を楽しんだりした。

あきなは多くの連盟役員が
ねぎらいの言葉を
かけに来た

また
対戦相手の東京の女性とも
談笑し
こどもたち共々すっかり仲良くなるなど

他県の様々な選手と談笑し
交流を深めた

同じ県のちよみとは
会食中
一度も話すことはなかったが
あちらもそれなりに楽しそうに
過ごしてる様子が見て取れた

そして
会食が終わり

ふと
そこでかいた汗を流そうと
子供たちを夫に任せて大浴場に行き
湯船の中で瞑想にふけろうとしていると

ちよみもお風呂に入ってきた
そして広い浴槽に入り黙ってあきなの横で座ると
「今日は もうちょっと 稽古したいな」

今日 本番ともいえる一番で負けた鬱憤のたまっている
ちよみはあきなを煽るように言ってきた
「あら 熱心ね」
「あなたが勝って 私が負けちゃったんですもの 尚更ね」

あきなもちよみが自分より強いメンバーとの大事な取り組みを任された
嫉妬心などからくる対抗心でこう返した
「わたしもちよみさんに勝って全国行きたいから
稽古しなくちゃね」
「ちょうど いいじゃない
いま ここで3番稽古なんてどう?」
「いいわね この広いお風呂の中でお相撲
楽しそうじゃない」

「私に負けてあなたがおぼれ死なないか心配だけど
このスリルがいいのよね きっと」
そう
互いのライバル心や嫉妬心からくる
売り言葉に買い言葉のようなやり取りの後

二人は
大きな湯船の真ん中で手をついて
から
組み合った

どちらかが投げを打って相手湯船に沈めれば
もう一方もその次で
投げ返し

貼りても激しく打ち合い

胸を合わせて激しく組合い

さらに腕四つの力比べなど
さまざまな形になって
何番も何番も対戦し

ついには
興奮した千代美の肘が
あきなの頬に強く当たったことで
あきなも
こぶしの突きを相手の
頬に見舞い

それに怒った
ちよみは蹴りを
何発も返し


ついには浴槽のそとで
喧嘩のような組み合いになり
どちらかが上になり下になる 

取っ組み合いに
なり

それぞれ息を疲れたところで

座り込み

それぞれの部屋に帰っていった

あきなは千代美には負けたくない気持ちを
より強くし

2日目の個人戦トーナメントに臨むのだった。