2013年2月1日金曜日

奉納神事

 夏の日の夕方
神社の土俵は白く濡れていた
村でこの年、子供を産んだ女たちが集まっての奉納神事が営まれたのだ
 
年に一度この神社では村の繁栄と豊作を祈願する祭りである

片山キミエも今年、この祭りに参加する一人である
キミエは義母にてつだってもらって
代々伝わる縄のように捻った3本の布を編み上げたふんどしをきつく締め込み
薄い浴衣姿で我が子を抱いて神社にむかった 神社ではそこの女神主や世話役の老女、来年の参加を控えた見習いのおんなたちなどのほかに キミエとおなじく今回の神事に臨む3人の女が集まっていた 女たちは持ち寄った酒やつまみでしばしの団らんの後 近くの川へ行って、 浴衣やふんどしを脱ぎ 川の水で身を清めた キミエのすぐ近くでは、今回で3度目の参加の大湊よしえが水浴びをしていた よしえは産後2か月とはいえ日頃の牧場での仕事で培ってきた一際力強い体つきを誇示するかのように 水を浴びていた キミエは去年、見習いに訪れた日のことを思い出し今日の最後にして最大のイベントである力比べの儀を思った かくして神事は 年内に生まれた子供を抱いてお祓いを受ける儀式から 一人一人が弓で矢を射る、大的の儀 神社の土俵に使う縄を結う儀式 と進み 会場を砂の上に縄を敷いた土俵に場所を移し最後の力比べ前の土俵入りの儀式が行われた 力比べに臨む女、一人一人がそれぞれの家に伝わる化粧まわしをつけ土俵入りを行い 家々の繁栄を祈願した こんかいは初参加のキミエ、河原えつこ、相川えいこと続き、最後を3度目の参加のよしえが務めた よしえは他の3人を圧倒するかのように堂々たる土俵入りを終えた そうしていよいよ 『力比べの儀』が幕をあけた 4人の女たちは勝ち名乗りを受けるともらえるご御神木をめぐって相撲を取り合い 一つの取り組みに一本ずつかけられた御神木を奪い合い総当たりで相撲を取る儀式だ 御神木の多い女の家には大きな福がもたらされると昔から強く信じられてきた だからこの儀式に臨む女たちは、一つでも多くの御神木を手にしようと姑や知り合いに稽古をつけてもらうなど 並々ならぬ気合で臨んでいるものが多い 去年、子を産んだ4人の女たちは、裸に縄1本を締めこんだ姿で、相撲を取り合った 女たちが力みあい、体をぶつけ合ったことにより土俵は少しずつ、この神事独特の白い色に色を変えはじめ キミエの出番が回ってきた、最初の相手は普段から懇意にしているえつことの対戦し えいこと対戦し、なんとか2つの御神木をものにし よしえとの一番に臨んだ よしえの前には歯が立たなかったが 御神木はなんとか一人一つはいきわたり 女たちは清々しい気持ちで家路についた

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