裸で全身から風を感じる開放感
対戦相手の女と組み合ったときに感じる
相手の女の滾るような体温と汗
相手の女を組みいなして
取り組みに勝ったときの達成感
そんな感覚に魅了され
ママさん相撲の土俵に足を踏み入れて5年の月日が流れた
練習のない日
子供たちも学校や保育園で家にいない時間
パン パン パーーン
と
力強くも鈍い音が家に響く
かすみはママさん相撲を始めてから
家の一室に据え付けたサンドバッグに
真っ裸で向き合い
一発一発張り手を撃ち込む
組み相撲を得意とするかすみも
始めたばかりのころは
激しい張り手の欧州に苦しめられ
いつしか
かすみも激しい張り手が飛び交う
ママさん相撲で勝ち抜くための手段として張り手を研究し
張り手をより多く用いるようになった
もともとは
少子化対策で国が給付金を支給する条件下で美容効果のあるスポーツとして始まった
ママさん相撲
始まった当初は
交流会としての側面が強く
大会などで勝ち負けを競う側面はあっても
投げ技を弾みで出してしまう程度だったが
少子化対策効果に着目した
国や自治体や企業がスポンサーにつき
普及奨励のために
参加度合いや競技成績に応じた割増の給付金や
取り組みごとの懸賞金などを出すようになり
専業主婦同士の社交的スポーツから
専業主婦として子供を育て家庭を守る女たち同士による
激しい格闘技に様変わりしていった
ママさん相撲の代名詞とも言える張り手
立ち会い後に組み合う前に
より自分に優位な位置取りで
相手と組み合うため
相手のバランスを崩すため
相手の戦意を削ぐため
張り手は
広く用いられるようになった
かすみの所属する生駒クラブの練習の日
かすみは
子供を小学校に送り出し
保育園に送り届けると
練習場所の山の上の公民館に向かった
この中の土俵にクラブメンバーで集まって
ママさん相撲の練習を行う
女たちが各々に
服を脱ぎ
ママさん相撲専用に開発された
バックルを締め込むだけで着用できる廻しを履きこみ
腰とタテミツの調整ベルトを自分の身体に合わせて締め上げ
静かで荘厳な空気の中、練習の準備をした
参加の8人全員で四股を踏み
それからすり足などのウォーミングアップを行うと
練習の中心メニューの
申し合いが始まった
取り組みをする2人の女たちが土俵に入り
そのまわりを取り組みの番を待つ女たちが 取り囲んで見守る
この時間になると
同じクラブの仲間同士でも
互いへの対抗心や野心で
熱くなることが多い練習メニューだ
クラブ内での相撲ではあるが
同じクラブのメンバー同士は
団体戦メンバー5人そして
勝ち進んだときの休憩交代要因の序列を争うライバルでもあり
また大会の個人戦で
同じクラブ同士で対戦することも当然ある
また
団体戦メンバーに入ると給付金が増額されたりといった優遇もある
大会の取り組みだけでなく
こういった練習の仲間うちでの取り組み内容も加味して
団体戦メンバー5人が決まる
そして、団体戦トーナメントが進むにつれて
疲れてきたメンバーとの交代で出やすい
順番も決まる
クラブ内での序列が決まる勝負の時間のひとつで
また取り組みを通して強くなっていくのに欠かせない時間のひとつがこの申し合いなのだ
こうした
申し合いのマッチメークや
メンバーの選出などを
クラブマスターと呼ばれる役職につく
倉野なおこが決めている
まずは、クラブに入って2ヶ月ほどの歴が浅い若い、石原あいと倉本ほのかの取り組みから
申し合いは始まった
最初の取り組みは
若い10代のような肌ツヤの裸体にまわし1枚の姿で
おわんのようなまだ育ち盛りの乳房を互いに正対させ合い
手をついた仕切りせん越しに強い眼差しを交わし合い
同じ日に入会し
普段は仲が良い2人も
取り組みでの対戦となるとむき出しの激しい闘志をお互いにぶつけ合う
取り組みが始まった
1発 2発と肩などに
覚えたての張り手を牽制しあうように
打ち込み合い
互いに揺さぶりあい
そこから
あいがよろめいたところに
ほのかが組み付き
あいの廻しの両腰を掴み
押し出しを狙う
組み付かれたあいも
ややバランスを崩しながらも
胸を合わせて組み止めるように受け止め
身体をよじらせながら粘る
ほのかはさらに胸を被せるように被りより
被せられたあいも踏ん張ってつま先立ちのようになって胸をかぶせかえして
被りより
また
足を動かして反転をしかけて逆転を狙う
最後は正面からの力比べのような組み合いのすえ
上手投げであいが逆転勝ちし
勝ったあいは
なおこの指名した
序列が近い別のメンバーと取り組みを
と行なう
今日、ほのかに勝利して
先輩に挑戦していく権利を得たあいは
果敢に先輩メンバーに力と技の限りを駆使して挑んでいくも
あいは経験の差で
辛くも敗れ
その勝ったメンバーは
別のメンバーとの取り組みに臨み
という流れで
申し合いと言う名の
クラブ内の内なる対決が続く
クラブ内の序列が下から順番に指名され
しばらくは
同じような順番で
同じような相手との対戦が続く場合が多く
よく対戦が続く同士は
互いにライバルとして意識し合い
競い合うようになる
そして
何度も同じ相手への連敗が続いていたりすると
順番が入れ替わったり
挙句は
団体戦レギュラーなどを奪われてしまう形になるようなこともある
そういう訳なので
クラブのメンバー同士で挑戦し合う
「申し合い」などの時間は
互いの激しい野心と競争意識が交錯する時間になっている
いよいよ、かすみが取り組みに指名された
クラブの後輩の石館あきの挑戦を受ける形になった
あきは
最近、クラブ内の序列をあげて
団体戦メンバー入りした入会2年目の期待の若手で
クラブ内での自分の序列を上げよう奮闘している
そんな勢いに乗る
あき
と
そんな後輩の挑戦を退けて
さらに高みをめざしたい
かすみ
の対決の構図だ
あきは
さっきまでの2戦を連勝してきた
疲れもなんのその
取り組み序盤から
激しい突っ張りなどを交えて
かすみを責め立てる
かすみも
張り返して
あきの出方をうかがう流れから
あきは
かすみのまわしを掴んで左右に動き回って
揺さぶりをかけるが
かすみは大きな胸を密着させて組み合いに持ち込み
自分の体温を合わせ込むことであきの体温を上昇させ
あきのスタミナの組み合いながら削りこみ
土俵外に押し出して
どうにか
先輩としての貫禄を保ったかすみが勝利し
次の取り組みは
かすみと同じ日に入会して
ライバルとして競い続けている
日岡まなみとの対戦を迎えた
このところまなみとは
練習でも大会の個人戦でも部が悪く
続けて敗れていて
ついに今日は序列が
まなみより下のところになり
悔しい思いをしているかすみは
冒頭から
激しくぶちかまし合い
渾身の張り手を方やみぞおちや頬に打ち込み
まなみも負けず強い張り手を頬やみぞおちに返す
そして
身体を密着させての正面から組み合いになだれ込むと
互いに負けたくない意地と意地をぶつかり合わせる
組み合いながら
左右に身体をくねらせてタイミングを探りあい
執念で
かすみは見つけた隙間を逃さずに足をかけて
執念でまなみを土俵に叩きつけて
連敗に終止符をうつことができた
まなみとは
入りたての頃の「申し合い」の
最初の取り組みでの対戦から
始まり
レギュラー当落選上の競い合いなど
常に近い順位で肌を合わせて競い合う間柄であり続けている
それ故に互いにレギュラーの確固たる地位に就いた今でも
練習だろうが、個人戦などの対戦であろうと
互いに負けたくないと強く思い合って
対戦に臨む間柄であり続けている
そして、因縁の対戦を終えると
クラブマスターにして、大将の座にも座り続ける
倉野なおことの対戦を迎えた
3年先輩のなおこは
かすみの攻めを軽くいなして
土俵に転がして格の違いを見せつけた
ようやくたまに勝てるぐらいには
なったのだが
それでもこの先輩にはなかなか
勝てないことをかすみはもどかしく感じ
土俵に両拳を叩きつけた
そしてこの取組みのあとは
なおこに挑みたい若いメンバーたちが
大挙としてなおこを取り囲んで
なおこはその中から指名して
なおこと、その若いメンバーによる
取り組みが始まる
この時
申し合いを希望して
なおこや上位陣を囲んでいくメンバーは
石館あきなど
主にレギュラー当落選上のメンバーが行くことが多い
なおこや上位陣に積極的に挑んで
他のライバルたちよりも自分の方が気持ちが強いことをアピールし
また
上位陣との対戦で
様々なことを学び自分の糧にすることを目的にしている
また
挑戦を受けるなおこや上位陣も
連続して何番も取ることで
勝ち抜き形式の団体戦で何番もとれるスタミナを養う機会にしている
なおこは六番ほど
若手たちと対戦し
どれも難なく若手たちを退けて
土俵から下がって
そのまましばらく
申し合いの制限時間まで
当落選上の若手たち同士の取り組みが
互いにレギュラーへの思いをぶつけ合うかのように
激しい取り組みを何番も行う
そのあと水分を補給するなどした後
最後は
みんなでムカデのように連なってすり足を
したあとクールダウンの体操をして
練習は終わった
こうしたクラブ内での激しい競争で
生駒クラブは奈良県内の目立たない存在から
若草クラブや御所クラブと並び立つ存在になり
時折
個人戦だけでなく
団体戦でも全国大会に顔を出すまでに力をつけてきた
また
かすみ自身もこういった環境で力をつけて
個人でも全国大会を狙えるまでになった
練習の翌日
回復を早めるために家の近くを少しジョギングしてから
体のケアも兼ねて
大阪の難波のエステに行くことが
かすみの定番パターンになっている
ここで
身体の疲れを取りつつ
肌のコンディションを整える
女同士の世界とはいえ
お互い裸を見合うことになるので
少しでも美しく見られたいという女心から
エステを習慣にする
ママさん相撲クラブのメンバーも多く
このエステで
大阪など他のクラブのママさん相撲クラブの知り合いに
出くわすこともあるが
こういった習慣も含めて
ママさん相撲をすると美しくなれるという
定説を生み出し
また
夫からの夜の誘いも増えて
子供がたくさん産まれやすくなるという
流れが産まれつつある
これに国や自治体が喜んで
給付金などを上乗せするという流れに繋がっている
そして
土曜日
かすみたち生駒クラブのメンバーは
かねてより親交のある京都の山城クラブとの
合同練習
午前中は団体戦形式の練習試合の
あと
午後は両クラブ入りまぜて
個人戦トーナメント
という内容で
2クラブ合同で大会の日の動きを模した練習
という内容で予定されている
大会が遠のくと
自分たちのクラブ内での対戦ばかりになり
試合での対応力が鈍ることがあるので
こういった合同練習や
自分たちのクラブ若しくは他のクラブが企画して開催する
小規模な大会に参加するなどし
様々な相手と対戦することで
対応力を鈍らせないために
こういったことが時折 活動内容に入ってくる
そうして始まった団体戦1試合目
激しいレギュラー争いのなかで
この試合の先鋒を勝ち取った
赤木たえこが
相手チームの先鋒と鬼気迫る張り合いからの
組み合いに敗れ
勢いに乗りレギュラーに定着しつつある次鋒の石館あき
も
同じ相手に年季の違いを見せつけられるような内容で
上手く交わされるように土俵に転がされ
相手の先鋒が鬼気迫る2人抜きを繰り広げる中で
この試合の中堅に名を連ねるかすみに出番が回ってきた
かすみは
相手の消耗に漬け込むかのように
体を密着させて
身体を左右にくねらせながら
持久戦に持ち込み
相手の力が抜けてきたところで
寄り倒して
次の相手次鋒との取り組みも
どうにか意地の押し出しで勝利をもぎ取るも
次の相手中堅との中堅同士の対戦では
これまでの2戦の疲れもあって
力比べの末土俵際で粘るも力尽き
土俵を割って
ライバルにしてこの試合の副将に座る日岡まなみにあとを託す形になった
まなみは
レスリングのように相手の下から潜り込んで組み付き
相手の足を取ってこかして
勝利した
チームメイトなので
自分が勝てなかった相手をまなみが
倒してくれたことは
喜ぶべきなのだろうが
かすみは
ライバルに先を越されたことへの
嫉妬心と
まなみへの対抗心が
より一層強まった
そして
まなみは相手方の大将との1戦に臨む
相手は全国大会に
個人でも常連のように出場する実力者で
それを相手にまなみは奮戦するも
あと一歩及ばず
土俵の外に押し出され
大将に座る
倉野なおこ
と
相手方大将
久堀なつこ
という
大将同士の決戦に
この団体戦の決着が委ねられた
序盤から激しく張り手を突き合って牽制しあい
なおこは
なつみの後ろ廻しをガッチリ掴み
なつみはなおこの前みつをガッチリ掴む形で組み合いになった
なつみは
暴れ牛のように左右に動き回ってる
なおこを振り回し
なおこは堪えて
なつみの廻しを抑え込む
大将同士の肌と肌を合わせる意地と意地のぶつかり合いは
しばらく膠着状態に入ったが
それから
なおこが 意地で押し勝って
なつみを押し出すで決着し
団体戦1戦目は
生駒クラブが勝つ形で終わった
それでも
ミーティングではなおこの厳しい言葉がひしひし響いた
そして団体戦練習試合2戦目
倉本ほのかと石原あいがそれぞれ先鋒と次鋒に入り
そして
たえこと日頃から激しいレギュラー争いを繰り広げる
片山ゆうこが中堅に入り
かすみのライバル日岡まなみが副将
そして
大将には
かすみが抜擢され
赤木たえこと石館あき
は
2戦目はメンバーを外され
自らも外れたなおこの横に座り見守る
なおこは
入会1年目のメンバーがつけることになっている白いリボンを髪に結びつけるあいとほのかを近くに呼んで
言葉をかけた
「今回は相手の先鋒と次鋒もあなたたちと同じような時期に始めたぐらいの2人を出してもらってるの
おちついて
今まで教えたことをその通りにやっておいで」
話を聞くと
初めての団体戦に緊張していた
あいとほのかは闘志みなぎらせて
控えの席に向かった
そして
あい と ほのかにとって
初めての団体戦が始まった
相手も陣容をガラリと変えて
若い5人を送り込んできた
先鋒のあいが
土俵に入る
相手の先鋒もあいやほのかと同じように
髪に白いリボンを結びつけて土俵に上がってきた
あいと同じくらい
若さを感じさせる風貌の女が
あいと正対した位置の仕切り線に出てきた
立ち会いから
ぶちかまし合うと
2人は烈火のごとく激しい張り手を打ち合った
そして互いの両手を脇で挟み込ようなかたちになり1度胸を合わせて組み合うと
そのまま
左右にぐいぐいと揺れながら組み合う形となり
若い2人の身体は
土俵際付近で
踊り回るように動きまわり
相手を押し出すタイミングをうかがいあう
相手の山城の選手が
あいの身体を突き放し
また
張り手を繰り出すと
あいの身体は土俵上に崩れ落ちた
敗れたあいは涙をながし
ほのかはあいを抱き寄せて慰めてから
土俵にはいった
土俵には
先ほどあいを倒した白いリボン若い山城の
橘あいか
ほのかとあいかの
1戦は
ほのかが低く組みかかり
あいかの足をとって転がす形で
勝負がついた
敗れたあいかは
ほのかを激しく睨みつけながら
土俵の外に出て
ほのかの勝ち名乗りを見つめた
そして
2人目の 今川ひろこ
と
ほのかの対戦になった
髪を白のリボンで結んだ両者は土俵に入り
合図とともに組み合った
胸を合わせて
互いに攻防入れ替わりながら
仕掛けるタイミングを探り合い
左右にぐいぐい動きながらチャンスを探り合い
最後は意地と意地の我慢比べの末
ほのかが
ひろこを土俵にたたきつけ
山城クラブの中堅
紺谷まさこに挑戦する形になったが
ここまで2戦の疲労もあり力及ばず土俵に倒されたものの
あいとほのかの取り組みに奮起したゆうこが
3戦連勝し
またしても
生駒クラブの勝利に終わり
たえことのレギュラー争いをぎゃくてんすふような形になり
午前の団体戦が終わり午後の個人戦のトーナメント表が張り出された
概ね 生駒クラブメンバーと山城クラブが当たるようにトーナメント表が組まれた
また
入って2ヶ月の
あい、ほのかはそれぞれあいか、ひろこと
トーナメントの最初の2枠で対戦するように組まれた
午後のトーナメントでは
あいもほのかも 1回戦でほぼ同期の山城クラブの2人に敗れ
山城クラブの同期対決をやられてしまったことを悔しがり
山城クラブの新人同士の対決は
激しい張り手の打ち合いからの
身内同士なのかと目を疑うほど
激しいものになり
ひろこが勝利を収め
先輩たちへの挑戦権を勝ち取った形になった
かすみは
ライバル視するまなみを意識しながら何個か勝ち上がったところで
おなじ生駒クラブのゆうこの挑戦を受けるも
レギュラー奪取に燃えるゆうこの執念の突き押しの前に敗れ
決勝はかすみのライバル まなみと
山城クラブ 期待の若手 生田ともこの対決になった
場内全体から歓声がわきおこるなか
両クラブの意地と意地のぶつかり合う対戦は
経験で上回るまなみを
ともこがねじ伏せるような形で
ともこが制した
色々あった練習試合だったが
自分もうかうかしては居られないと
かすみは気を引き締めて
帰りの車のハンドルを握り
帰路に着いた
それから
かすみも
他のメンバーたちの成長に危機感を感じつつ
より生駒クラブを強くしたいと願い
練習のない日も
自宅などに
あき、あい、ほのかなど
若いメンバーを招いて
個人練習をやったり
若草クラブや大阪の古市クラブなど他のクラブの知り合いと
個人練習を積極的に行い
迎えた
大きな大会の初戦
午前の団体戦
まわし姿のかすみは
前まわしにつけた
生駒の文字の入った
ゼッケンを整え
応援に来た子供たち二人を抱きしめてから
土俵に入った
この団体戦の初戦は
なおこの後ろの副将の位置を任されて
相撲を取る
ママさん相撲の土俵にあがる女たちは
今日も家庭をまもり
我が子を守り育て
その矜恃を競い合うように鍛え合いながら
土俵に上がり続ける
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