とある日曜日
さやかは大きな体育館の中の土俵の上に居た。
仕切り線に拳をのせて
相撲の立ち会いの姿勢で
対戦相手の女と呼吸を合わせ、
審判の取り組み開始の合図を待っていた
体育館の中は
裸に締め込み姿の女たちの熱気が充満し
いつも一緒に相撲の練習をしている
フミカ、よりこ、あゆみは客席に確保したグループの席から
自分たちの中の最年少のさやか取り組みの様子を固唾をのんで見守る。
今日は"ママさん相撲"の大会の日だ
ママ友同士でそれとなく始めた相撲
まさかこんな大きな大会に参加してしまうほど深入りしてしまうことになるとは
2年前のさやかなら思いもしなかっただろう。
そもそも相撲なんて
裸にふんどし姿でまさかじぶんがやっているなんて
それでも
やっているとなんか気持ちがすっきりする
勝つとなおさら気分がよくて
負けても、次はもっとこうしようとか
なぜか不思議と気持ちは前を向く
悔しくはあるのだが、それもまた楽しい
そんな心持ちで
最初はテレビをみて温泉の土俵で気まぐれではじめた相撲
さいしょは真っ裸で組み合っていたのが
つかむものが欲しいからと
腰にタオルを巻くようになり
たまに誰かの家や公民館で練習するようになると
流石に陰部を露出したままというのはと
youtubeに倣うって思い思いに好きな色のふんどしをつけるようになり
最初は1番乗り気じゃなかったさやかが提案してグループ全員で大会に参加する運びになり
ついこないだ、スポーツ用品店で
大会参加に必要なマワシをグループ全員で買ってきて
一回だけ練習で付け方から付けてみての取り組み等まで練習した真新しい白いまわしが
さやかの腰に巻かれている
そうして迎えた
初めての見ず知らずの女との大きな大会での1番は
どうにかこうにか
激しい攻防の末
さやかに勝ち名乗りが上がった。
そうしてさやかは
順調に勝ち上がり
同じグループのあゆみとの対戦になった
年が最も近く、専業主婦になる前は同業他社の商社に勤めていた者同士とあって
ひそかにさやかはあゆみを意識していた
大浴場などでの普段の練習の取り組みから
あゆみとの対戦に特にさやかは熱を入れてきた
また普段、最も子育てや家事などの話をしたりする間柄のさやかとあゆみだが
トーナメント表を勝ち上がるにつれ
互いに意識しだしたのか
今日はふだんより互いの口数が少なくなりながら
遂に対戦の時を迎えた
「さやか、ぶっ倒してやる」
「あゆみさん、負けませんよ」
そう会話を交わし
さやかとあゆみはこの大会の準々決勝の土俵に右と左に分かれてあがっていった
そうして
仕切り線に手を突いてにらみ合った2人は
審判の合図で激しく身体をぶつけ合い
身体を押し付け合いながら
右に左にと圧力を掛け合って駆け引きをし
大きさに自信をもつ互いの胸と胸を密勅させながら喧嘩四つでマワシの主導権を奪い合い
長い取り組みすえ
あゆみがさやかを土俵にたたきつけるように上手投げを決めて
勝ち名乗りを受けた
さやかはライバルに負けた悔しさを少し目を腫らしつつも
1つ上の先輩のあゆみに手を差し伸べてもらい、一緒に仲間の待つ席に引き上げた
「あゆみさん、次は負けませんよ」
「あんたは私が神奈川で1番になるのを後ろで見ときな」
そんな会話をかわしつつ
2人は普段の関係に帰っていった
つぎこそはあゆみに勝ちたい
そんな思いが
さらにさやかを"ママさん相撲"のなかに深く引き入れていくのであった。
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