2016年10月16日日曜日

とあるまちのママさん相撲の人 2

体育館の片隅のマットの上には、裸にまわしだけをまいた女たちが10人近く集まっていた。
よりこも若葉が用意したまわしを締めて、その輪の中にいた

「岩田さん、やっぱりほんとうに裸になるのね」
「これの空気に慣れたらこれが快感になのよ」
「そうなのかな ・・・・
やっぱり恥ずかしいわ」

よりこはこの日までに
インターネットで
ママさん相撲の大会の映像などを見たりして予習してきたつもりだったが
やはり
外からも見える場所
周囲におおっぴらに裸の姿になる事には恥じらいを感じる中
まずはみんなで
土俵周りを軽く走った後に
股割りのようなものを含めたストレッチや
四股など基本的な運動を行った後
対戦形式の練習に入っていった

「大村さん、篠崎さん
とりあえず勇気をだして挑んでみるのよ」
主将の市島ほのかから声をかけられた

40歳を過ぎた実年齢だが
何年か相撲をやりこんだ成果なのか
28歳のよりこと並んでも同じ年に見えるぐらいの若々しさを漂わせていた


いよいよ対戦形式の練習が始まった
裸の女たちの放つ熱気と気迫によりこは圧倒された


練習とはいえ
女と女が裸で女の意地をかけて戦っている
そんな空気が土俵の書かれたマットの上を取り囲んでいた


「チームの人たちはね、それはもちろん仲間なんだけど
やっぱりお相撲って、勝った一人だけが土俵の上に残るじゃない
だから負けたくないのよね、だれであろうと
もちろんチームだし団体戦では味方なんだけど
団体戦のメンバーは3人だけだし
メンバーに入るためにはチーム内で勝たなきゃじゃない
応援してるよりは出るほうがおもしろいし
個人戦だとチームの人も対戦相手になったりするしね」
若葉の言葉がよりこのあたまのなかで回想された」


対戦形式の練習は総当たり戦形式で行われた
よりこはどの対戦相手にまったく歯が立たずにまったく勝てないまま最後の対戦をむかえた
最後は同じく今日初参加の大村めぐみとの対戦だ


自分と同じ初心者には負けたくない
よりこはそう強く思って土俵に向った


めぐみはよりこより身長が小さく
よりこより胸は大きくふっくらした体格をしていた


よりこと同じくまったく勝てなかっためぐみも同じことを思っていたのだろう
土俵中央ではは強い眼の光が交錯した
今日教わったばかりの所作をして


両手をついて
行司役の合図で取り組みが始まった
互いの負けたくない気持ちがぶつかり合い
激しく組みつきあった二人の体が右に左に
動き
動きにわずかな隙が出たよりこがめぐみに覆いかぶさられるような形で終わった


よりこは
まったく勝てなかった悔しさと
裸で闘うことの快感に頭がおおわれていた


「篠崎さん 今日どうだった?」
練習後 着替えてる時に若葉に話しかけられた


「楽しかったけど、ひとつも勝てなかったのが悔しいかな
まわしはどうしたらいいかな?」
「今日のは貸出用だから洗濯して返して
自分のが買えるまでそれ使っててもいいし」


こうしてよりこの相撲人生は全敗ではじまった。

2016年10月13日木曜日

とあるまちのママさん相撲の人

篠崎よりこは夫と子供を会社と幼稚園に送り出し
スーパーのパートに通い
そして家事をこなす日々を
どこか乾いた気持ちで淡々と過ごしていた

とある日の夕方
子供と散歩して近くの体育館を通りかかると
ママさん相撲の練習してる光景が目に入った

ママさん相撲
相撲の美容効果が注目され
何より少人数と少ない投資額で気軽に始められるスポーツとして
主婦たちの間で少しずつ普及してきているものだった

よりこももちろんそれは知っていたが

最初は内心
女が裸でまわし巻いてあんなことするなんて気がしれない
と思っていたよりこだったが

なんとなくひきつけられるものを感じ
最初はなんとなくわざと練習のある日に体育館の近くを通りかかるようになり
練習を遠目から覗いていくようになっていった

そして
ある日
その体育館が子供のピアノの発表会の会場になり

体育館の入口で子供の順番を見ていると

いつも見ているママさん相撲チームの募集の貼り紙が目についた

そのメンバーの写真には
見知った顔が一人入っていた
パート仲間の岩田若葉だ

そういえば岩田さん
ココ最近 痩せてきてきれいになったと思ったら
これだったのね


内心、思っていたら
その岩田若葉から声をかけられた
「あら 渕崎さんお相撲興味あるの
私が仲介してあげるから
まずは見学でもきて!」

彼女も同じピアノの発表会に来ていたのだった

そうして




よりこは 若葉に進められるままに
ママさん相撲の練習場所の体育館に向うのだった